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仙台高等裁判所 昭和25年(う)209号 判決 1950年6月17日

被告人

上野一利

主文

原判決(無罪の部分を除く)を破棄する。

右破棄にかかる部分を青森地方裁判所八戸支部に差し戻す。

理由

弁護人遠周蔵の控訴趣意中、検察官の久木田チヨ、夏堀勇次郎に対する各供述調書は断罪となし得ざるものあるとの論旨について。

原判示の事実と、その挙示する証拠を記録により検討して対比すれば、

原判示事実の中、第二の「被告人が昭和二十四年五月十日頃居村雑貨商久木田チヨ方に於て同女に対し買入代金支払の意思なく、又現品返還の意思もないのにこれあるが如く装い寸借名下に同女を誤信せしめ、時価金三千円の中古赤皮鞄一ケを受取りこれを騙取したものである」との点を、被告人の公判廷における供述並びに検察官の久木田チヨに対する供述調書の記載により認定し、また第三、の「被告人が昭和二十三年五月末頃居村劒吉駅前通に於て夏堀勇次郎に対し、これを呼寄せ同女の顔を数回殴打し更に同人を倉庫附近に連込み同人が畏怖しているのに乗じ十円の貸与方要求し現金五百円の交付を受けてこれを喝取したものである」との点を被告人の公判廷における供述並びに夏堀勇次部に対する検察官の供述調書の記載により、認定したことが明らかである。しかるに原審公判調書によれば、検察官が右久木田チヨ、夏堀勇次郎に対する各供述調書につき証拠調をすることに異議がありませんが右の書面を何れも証拠とすることには同意しません」と意見を述べていることが明らかである。右意見はその意味必ずしも明確なものであるといえないけれども、少くとも右各供述調書を以て刑事訴訟法第三百二十六条にいわゆる証拠とすることに同意したものであるとは解せられない。その他記録上被告人が右各供述調書につき証拠とすることに同意した形跡は認められない。従つて右各供述調書については刑事訴訟法第三百二十一条第一項第二号所定の事由のない限り証拠となすことのできないものであるところ、記録を検討するも右各供述者につき右の規定に該当する事由のある形跡は窺われない。しかりとすれば本件において右各供述調書はこれを証拠とすることができないものであるというべきにかかわらず、原審がこれを罪証に供したのは採証の法則に違背し、この点において破棄の事由があるものといわねばならない。

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